入れ歯は着脱式の装置であり、毎日きちんとお手入れする必要があります。入れ歯の素材によっては汚れ、ニオイが付きやすく、細菌も繁殖しやすくなっているため、正しい方法でケアしなければなりません。ここではそんな部分入れ歯・総入れ歯の洗浄方法や保管方法についてわかりやすく解説します。
保険の入れ歯の主な材料はレジン(プラスチック)
保険診療の入れ歯の場合、構成する主な材料はレジンと呼ばれるプラスチックです。人工歯と歯茎の部分では使われているプラスチックの種類が少し違うのですが、いずれも傷が付きやすく不潔になりやすい点に注意しなければなりません。
入れ歯の注意点
入れ歯の衛生面に関しては、以下の点に注意しましょう。
① 傷がつきやすい
② 汚れ・臭いを吸着しやすい
③ すき間で細菌が繁殖しやすい
④ お口の粘膜を傷つけやすい
入れ歯が不潔になると起こること
入れ歯のお手入れが不十分で、装置やお口の中が不潔になると次のようなトラブルが生じます。
①口臭が発生する
②むし歯・歯周病にかかる
③口内炎ができる
④入れ歯の変色・歯石沈着を招く
⑤誤嚥性肺炎の原因になりうる
入れ歯はとても繊細な装置です
私たちの歯はとても丈夫な組織なので、多少強く磨いても、大きな問題が生じることはありません。一方、入れ歯はとても繊細な装置です。正しい方法でやさしくお手入れしないと、変形や変色、破損を招くことになります。
① 入れ歯は毎食後お手入れする
入れ歯は、食事をする度に洗浄しましょう。汚れた入れ歯を使っていると口臭が発生したり、細菌繁殖が促進したりします。入れ歯を洗う際には洗面器に水を張って、その上で清掃するのが望ましいです。誤って落とした時に入れ歯が破損することがなくなります。入れ歯の洗浄は、専用の義歯ブラシを使ってやさしく行ってください。
② 就寝前は入れ歯洗浄剤を活用する
入れ歯に付着した汚れは、義歯ブラシによる物理的な洗浄のみで落としきるのは不可能です。入れ歯の表面に付着したカンジダ菌なども一掃するために、入れ歯洗浄剤による化学的洗浄も併せて行うことが大切です。入れ歯洗浄剤によるケアは、毎日1回、眠る前に行えば十分です。
あなたの入れ歯のケア方法、間違っていませんか?
① 入れ歯は歯ブラシ・歯磨き粉で磨いてはいけません
入れ歯を使い始めた方でもっとも陥りやすい誤りが歯ブラシ+歯磨き粉によるケアです。使い慣れている器具なので清掃しやすいのは事実ですが、入れ歯を傷つけてしまうことから控えるようにしてください。とくに研磨剤が含まれた歯磨き粉は絶対にNGといえます。
② 入れ歯洗浄剤は長く浸けるほど汚れが落ちるわけではありません
入れ歯洗浄剤による消毒・殺菌効果は一時的なものです。“長く浸けるほど汚れが落ちる”と勘違いしていると、かえって細菌の繁殖を促してしまいます。就寝前に使用する際には、必ず新しいものに取り換えましょう。
③ 入れ歯を熱湯で消毒すると装置の変形につながります
煮沸消毒を行うと、多くの細菌を取り除くことができます。歯科医院でも金属製の器具を専用の滅菌器になどにかけますが、プラスチックは例外です。入れ歯に使われているレジンは熱によって変形しやすいため、洗浄する際は常温の水を使うようにしてください。
入れ歯の正しい保管方法
入れ歯は乾燥すると変形・変色が起こります。お口から取り外した際は、必ず専用に容器に水や保存液を入れて、その中に保管するようにしましょう。
歯とお口のお手入れも欠かせません
ここまで、入れ歯という装置のお手入れ方法を解説してきましたが、歯やお口のケアも忘れてはいけません。入れ歯を外した際には、残った歯はもちろん、歯がなくなった部分のケアもしっかり行ってください。
「総入れ歯」を外したあとの口腔ケアについて
① 入れ歯で覆われている粘膜や歯茎をやさしく磨く
総入れ歯では普段、粘膜や歯茎の大半が入れ歯によって覆われています。また、歯がないため歯垢や歯石が堆積することもまずないのですが、細菌や真菌は繁殖しています。やわらかめの歯ブラシを使ってやさしくブラッシングしましょう。市販されている粘膜ケア用のブラシを使っても良いです。
② お口の筋肉を使いながらクチュクチュとすすぐ
総入れ歯の方の口腔ケアは「口すすぎ」がメインとなります。水をお口の中に適量含んで、クチュクチュと軽くすすぎましょう。その際、頬の筋肉などを効果的に動かすと、お口の中の汚れが落ちやすくなります。
「部分入れ歯」を外したあとの口腔ケアについて
① 金具(クラスプ)がかかっていた歯はしっかり磨く
部分入れ歯の留め具であるクラスプがかかっていた歯は、汚れがたまりやすいため特にしっかり磨く必要があります。必要に応じて、ヘッドが小さな歯ブラシやワンタフトブラシを活用しましょう。
② 孤立した歯は全周しっかり磨く
孤立した歯は、すべての面に歯ブラシが当たるように工夫しなければなりません。ブラッシング指導で正しいケア方法を学ぶことが大切です。
入れ歯に違和感・不具合が生じたらすぐ歯科に相談
入れ歯は合わない状態で使い続けると、歯やお口のさまざまなトラブルを引き起こします。次に挙げるような症状が認められたらすぐ歯科を受診しましょう。
① 入れ歯が歯茎や粘膜に当たって痛い
② 入れ歯が着脱しにくい
③ 会話にしにくい
④ ズレたり外れたりする
⑤ 入れ歯で噛みにくい
⑥ 入れ歯にヒビが入った
⑦ ワイヤーがかかっている歯が痛い、被せ物がとれる
監修者情報
院長 加藤 晴康
大阪歯科大学に入学し、歯科医師免許取得。
卒業後は、口腔外科にて研修後、東大阪本多歯科医院にて約10年本多正明先生に師事し、総合診断、補綴を徹底的に学び研究・教育に従事。